ピアノリサイタルの翌日の予定は、ウィーンの街歩きとヴェルディのレクイエム。マチネだったので、夜の部をどうしようかと迷った結果、フォルクス・オーパーでフィガロの結婚を観に行きました。ほかの候補は国立歌劇場のオペラ・カプリッチオとカールス教会でのモーツアルト・レクイエム。いくら好きでも1日に2回もレクイエムを聴きに行くのはお葬式マニアみたいなので、オペラということにして、馴染みのある方の演目選んだわけです。
レクイエムの会場は、タクシーの運ちゃんによると、ムジク・ヴェラ”インと言う感じで発音していた、楽友協会の大ホールで連ちゃんです。それがね、人気演目の立ち見席を甘く見ていました。。同じホールでも前日の前方横と最後方では音の響きも違いますが、それより混み方が尋常ではありません。これほど人口密度が高い状況は日本以外では初めての経験でした。イメージとしてはピークをちょっと過ぎた通勤電車か隅田川の花火かという感じ。私は背の高い方なのでまだマシでしたが、ステージの視界は横30cmと言ったところです。写真で分かるように人の頭と柱の合間からステージを覗くような状況でした。(^^;
こんな過酷な環境に、つい最後まで耐えてしまった演奏会のはしごについては続きからどうぞ。
黄金の間の立ち見席エリアはステージと正対した反対側の壁面。イス席の終わりにロープが渡してあって、そこから後ろの壁までのスペースに立つわけです。最前列には背の低め人が配置さて、大きめの人はやや遠慮気味に後ろの方にいます。壁際の皆さんは開始前から床に座り込んでいて??と思ったのですが、人が増えるに従い、最前列以外はステージがほぼ見えない事が判明。いやはや大変な状況です。
その上、当日はムシ暑く、エアコンが利かないので空気も悪くて酸欠状態。ステージが良く見えない・息苦しい・足が疲れるとチケットの値段が安いわけに納得。演奏が不調だったらウィーンフィルと言えども、途中で絶対帰ろうと思ってました。若者とお年寄りが何人か、顔色を悪くして途中退場していましたが、あとの皆さんはふらふらしながらも頑張って聴いていたという事はその価値があったと言うことでしょう。
ところで今回のソリストのバス・バリトンの名前には聞き覚えがありました。このブログでもバッハのカンタータで話題にしたことがある、トーマス・グヴァストロフです。A.マイヤーのオーボエ目当てで買ったアルバムでしたが、彼の歌声にもすっかり魅了され覚えていた訳です。そんな彼を生で聴けるというのはなんという幸運。歌声は本当に素晴らしく、彼のソロではみんなが聴き入り、空気まで違うような気までしました。
CDジャケットで顔は覚えていたので、ステージに上る彼を見て驚いたのは、体が不自由だという事を全く知らなかったからなんです。極端に低い身長と、短い手足に遠目にも先天的な障害だということが分かりました。歌の合間に座っている他のソリストと、ずっと立っているグヴァストホフと同じ位の高さ。楽譜をめくる指も不自由そうでしたが、声は深く、厚く、誰よりも自由でした。目を瞑って聴きながら、彼の音楽性が最大限に引き出された事に感謝をしました。
視界が制限されていたので、指揮ぶりは殆ど見えなかったのですが、合唱も楽器の一つのように美しくまとめてゆく様は魔法のようです。オーケストラ・合唱・ソリスト達が本当に一体となって鳴っていたは、きっと黄金のホール独特の響きのせいだけではありません。最小から音量から始まり、荘厳な雰囲気を味わわせてくれたあと、怒りの日では爆発するようなパワーを見せつつ、意識が全く分散せずに全曲見事に流してゆきます。
歩き疲れて足が痛い上に、超混雑している立ち見席では、意識が遠くなる瞬間もありましたが、しんどい時は「怒りの日」を頼りに気を持ち直しました。そのせいか、ムーティのレクイエムは間違いなく、ミサの形を借りたオペラではなく、ドラマチックながらもミサを表現していると確信しました。また、もともとレクイエムなのに死にかけた人も生き返りそうな曲だと思っていましたが、この経験でその認識を更に深めました。(笑)
ところで、演奏をコントロールする緊張感とドラマチックな感情の迸り、各パートがお互いを引き立て合い、これだけ絶妙なバランスを取る演奏はなかなか聴いたことがありません。特にオケだけでなく、合唱とソリストも加えてこれだけコントロールしつつ歌わせるのは至難の業だと思います。客席全体が名指揮者と共にステージに立つすべての人にブラボーを送っていました。聴衆の興奮した面持ちと熱い拍手に、これはかなり評価された演奏だと伺い知りました。ウィーンフィルの中でも特に素晴らしい演奏を聴くことができて本当に幸せです。
名演奏の余韻に浸る暇もなく、地下鉄に乗って次はフォルクス・オーパーへ。電話で予約した番号とカードを引き換えにチケットを無事ゲットしたのは良いものの。土日はお店が早く終わってしまうので、6時すぎるとベーカリーカフェなどが閉店していて困ります。結局劇場の周りを二周してようやく軽くサンドイッチが食べられる店を発見し、立ち見でパンパンの脚をさらに痛めつけてしまいました。皆さん、ヨーロッパにはコンビニはないので、土日は特に気を付けてくださいね。(^^;

フォルクス・オーパーの席は最前列、ほぼ真ん中でオケピットがよく見えます。フィガロの結婚の中で、良く知っている曲は序曲といくつかのアリアくらいでしたが、役者の演技が素晴らしく、とっても楽しかったです。オーソドックスな演出でしたが、ミュージカルというかソープ・オペラみたいでドイツ語も分からないのに大笑い。
お調子者のフィガロはもちろんですが、特にスザンナ役は可愛らしくてユーモラス、伯爵はハンサムで大げさでちょっとどんくさく、ケルビーノは調子が良くて少年っぽい、伯爵夫人は優柔不断で愛すべき人。皆キャラクターが立っていて、なんどかあるかくれんぼのシーンでもお約束通りにどきどきハラハラさせられました。歌ももちろん上手なのですが、オペラは音程通りに歌うだけじゃなくって演劇として成立しなくっちゃと思いました。
ほかの曲で手を抜いているわけではありませんでしたが、序曲ではオーケストラの気合いを感じました。このワクワクさせる雰囲気が、序曲本来の役目ですよね。^^オケに二人、歌うキャストに二人アジア人のメンバーがおり、音楽の世界では人材の流動性が高いなーと余計な事を考えました。終わってホテルに戻ったのは11時過ぎと大変長い一日でした。翌日は。。脚がむくんで靴に入らず困りました。(^^;;
下の写真は今回聞けなかった国立歌劇場とウィーン国立音大の隣にあるコンツェルトハウス。次回はこちらでも聴きたいです。それから教会での演奏会もぜひ聴いてみたいと、帰ったばかりというのに夢は膨らむ一方。。ウィーンではたぶん仕事はないので、ぜひまた機会があれば中継地点にしたいと思います。ってか、一度ゆっくり旅行で行きたいですね。^^


クヴァストホフに関するブログ記事
http://intermissionbyromain.blog76.fc2.com/blog-entry-35.html
2008年6月7日15:30〜17:30
楽友協会大ホール
レクイエム Requiem: Giuseppe Verdi
指揮:Riccardo Muti
演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
合唱:ウィーンフィル合唱団
Soprano Barbara Frittoli
Alto Luciana D'Intino
Tenor Ramon Vargas
Bass/Baritone Thomas Quarthoff
2008年6月7日19:00-22:30
フィガロの結婚 Die Hochzeit des Figaro: Wolfgang Amadeus Mozart
Hager/ Marelli/ Niefind-
K.Kaiser, Steinberger, Riendl, Rosin;Larsen, Wagner, Huml, Drescher, Gratschmaier, Wasserlof